Exploring the Universe of 'Satoyama' - Interactive Ecosystem of Nature and Human

京都里山讃歌

KYOTO SATOYAMA SYMPHONY

水源の里 市茅野のシャガ

芦生[06]新緑の上谷

2018年05月

 

 

 

 

 

 

 

新緑の上谷

この日は雨も懸念され、実際、長治谷小屋付近に着いた時には小雨も注いだ。

長治谷小屋付近

(長治谷小屋付近から北を望む)

しかし次第に晴れ間が増え、陽光のなかを歩く場面が増えていった。

長治谷小屋付近から林道を北に向かうと、路傍には時折、ギンリョウソウが姿を見せるのだった。

ギンリョウソウ

(ギンリョウソウ)

苔むした杉の切株のうえに、ちいさな杉の芽がひそやかに息づいていた。

やがては大木となっていくのだろう。


やがて野田畑湿原が見えてきた。

野田畑の「野田」は、湿地を示す「ヌタ」だろう。

住居跡を示すというクロマツの姿が見える。(下の写真中央)


この日は多くの花に出会える日で、内杉谷にはタニウツギやミズキの花が揺らいでいたし、上谷にはヤブデマリやサワフタギ、フジやトチの花を見ることができた。

(ヤブデマリ)※厳密には白い部分は装飾花

野田畑湿原の中心部は意想外に広闊だったが、鹿の食害か、下層植生は失われて緑でなく黄色い印象を与えていた。

(野田畑峠方面を遠望する)

野田畑(2007年5月)
(↑参考:2007年5月時点の野田畑の様子)

(バイケイソウ)

右岸にはオオイワカガミの群生しているところがあった。

(オオイワカガミ)

長治谷小屋付近では小雨や曇りだったものの、この頃には陽光も確実なものとなって上谷に降り注ぎ、目映い新緑の風光のなかを歩くことができるようになった。


枝が垂れ下がって伏状更新したアシウスギがあり、そのそばにある別のアシウスギの葉に触れてみると恰もヤナギのような柔らかい感触が伝わってきた。


五月とて、フジも紫いろの花を至るところで垂れ下がらせていた。


ホオノキには蝋燭のような蕾がいくつもあり、一部分だけは開きかけたり、白い花を開かせたりしていた。


杉の皮を熊が剥いたのか、白い内部を見せており、そこには牙で引っ掻いたような溝もついていた。


新緑のなかの花たちに誘われるように時折、白い蝶が素早く乱舞し、写真を撮ろうと思えばすでに他の場所に移動するというふうに、機敏に移動しているのだった。


この日、渓流沿いでよく出会う花といえばヤブデマリとサワフタギが双璧で、毛玉の糸のように細かくなったサワフタギの花が白く輝いているのだった。


新緑の上谷の風光は夢のように広がっていた。


岩谷との出合いには印象的なブナが佇立していた。


そしてそのブナの根元を流れる上谷の渓流には、タカハヤらしき魚が機敏に遊んでいるのだった。


見上げると樹々の葉が陽光に透き通っていた。


上谷と岩谷の出合いには細長い分離丘陵があり、もしかすると上谷ないし岩谷の流路変更によって形成されたものかもしれなかった。


すこし進むと大きなトチノキが見えてきた。


その樹皮は魚の鱗のようにかさなり、積み重ねてきた風雪の繰り返しを偲ばせるのだった。


上谷に沿った小さな湿地にはモリアオガエルの卵が白い風船のように垂れていた。


上谷の真横に立つトチノキの根は、浸食によって剥き出しになり、網の目のような姿を露出させていた。


別のトチノキの根元には大きな空間が出来て、熊の冬眠に適したムロなのかもしれなかった。


やがて上谷の流量がとみに少なくなって源頭の感じが強まり、もう杉尾峠も遠くないという実感が迫ってきた。


谷底が掘れていてそこから水がしみ出している。

そこより上の地表にもう水流自体はない。

もちろんここより上部にも水が伏流して含有されているのだろうが、地表で見えるものとしてはそこが由良川のほぼ出発点といえそうだった。


迫にもう水流はない。

なだらかな源頭、そこがまさに長い由良川の出発するところなのだった。

(杉尾峠の手前から上谷の源頭を振り返る)

そして杉尾峠の標柱が見えた。


杉尾峠の福井県側は杉の植林だったが、その杉のあいだからも福井県の山々が霞んで見えた。

この日は霞のため日本海は視認できない。

しかし見えないながらも山並の向こうに海がある、その感覚を必死につかもうとした。