オグロ坂
はじめてオグロ坂を越えたのはもう数十年も昔になる。
久多からオグロ坂を越え、八丁平を経て峰床山に登った。
久多からの道は谷を離れ、斜面をひたすら切り返しながら上がっていく。
記憶のなかにそうした、斜面をひたすら切り返した場面が残っている。
その時、荷物のなかに双眼鏡があったはずである。
というのは切り返しの途中で双眼鏡の蓋の片方をふと落とした、そんな一場面を覚えているからである。
おそらくその頃はまだ道沿いに笹が生えていたのではないだろうか。
中学生であった十代の日のそんな記憶のなかに、オグロ坂の切り通し自体の風光はかすかにあるかないかである。
そして最近あらためてオグロ坂を訪ねる機会を得た。写真と動画はその時のものである。
『北山の峠』の白黒写真にある、笹に覆われた峠の姿は、今は様相を異にしている。
金久昌業『北山の峠』(上)より
「オグロ坂の峠は鎌倉山から峰床山に連なる尾根の低い部分を越す切り通しの峠である。少し開き目のV字型に截然と稜線上から切り込まれている、いかにも峠らしい峠である。」(50頁)『北山の峠(上)』では稚狭考にいう青海村、尾越村のうち青海村について、八丁平にあったのではないかと記しているが、普通に考えれば青海は大見であって、尾越と大見を並べて書いているだけなのではないか。